チカチカする

半身浴をしていた。ぼんやりとした照明が甘ったるい湯気でますますぼんやりしてしまうことと、恋人が入れてくれた入浴剤が必要以上にヌルついていることに苛つきながら、沈んだ気分とともにずるずると顔を湯船に沈めてみる。ぷくぷく、ぷくぷく、わたしは呼吸をしているのだなあ。

 

最近よくコーヒーを飲んでいる。寒いから温かいものが飲みたくて、恋人の家にはバリスタの機械があるから勝手に使う。コーヒーは別に嫌いじゃないんだけどコーヒーを飲んだ後の口内の不快感はいつまで経っても慣れない。そもそもわたしは口内に何かを摂取した痕跡が残るのが好きじゃない。生の玉ねぎを食べた後の口内がいちばん嫌い。その不快感を我慢してでもコーヒーを飲む。

 

わたしはずっと子供のままでいるつもりなのだと思う。ここで子供というのは幼さではなく未熟さのことを言いたい。わたしはいま未熟だからこれからどんどんすごくなっちゃうんだぞという感覚が常にわたしを支配している。コーヒーだってそう、飲めなかったコーヒーだってわたし飲めるようになっちゃうんだもんね。

わたしは自分が圧倒的な自信のなさ、自己肯定感の低さを誇大で覆っている人間だと理解していて、本来の自分を誇大した自分に追いつかせようと常にあっぷあっぷしている。ねえ待って、いまのわたしに足りてないところはいつか絶対補完されるはずだから、ちょっと待っててよ、見捨てないで。そうやってずっと自分に満足しないまま、自分の受けた評価は正当じゃないなんて文句を垂れて、来ない成長を待ち続けるの?世界はみんな平等に今現在を評価しているなんてことわかってるのにね。

 

美しいものが好きだ。美しいものを好きな自分でいたかった。冬の夜、冷たい風に乗ったわたしの白い吐息が信号機の緑色をぼやけさせる様子にいちいち心動かされていたかった。美しいものを好きでいたいわたしはしかし何が美しいのか判断する基準を美しくない自分に委ねきることができなくて、本当に、心から、自分で美しいものをみつけて愛でられるようになる"いつか"をずっと探して歩いている。そんないつかは永遠に来ないことはわかっている、わたしは存在しない自分の伸びしろに全てを託して甘えながら生きて、そして死んでゆく。